ワンday

12/19
前へ
/34ページ
次へ
助けるだけでは終わらない。面白そうなことがあればどこへでも顔を突っ込みたがるのだ。 今のその表情が何よりもそれを如実に語っている。 龍臣は諦めた。 目の前の男に隠し通せるとは微塵も思わない。 大きく溜息を溢し、被っていたフードを外して尻尾も出した。 「……」 現れた灰色の犬耳と尻尾に、龍正は目を開いた。 本物そっくりなそれをまじまじと見て一言。 「…コスプレか?」 ギロリ 睨むことでその言葉に返事をすれば、だよなと笑う龍正。 「しかしコスプレじゃないならなんなんだ?」 また説明しないといけないのか。面倒臭がりな龍臣にしたら苦行だ。 しかし言わなければ誤解されたままなので言うしかない。 龍臣は再びこうなった経緯を話した。 「ほお…それはまた奇想天外だな」 「俺も未だに信じられない」 何度説明してもおかしな話だ。 龍正はそれでもその説明を信じたようで、納得している。 すると龍臣に近寄り、頭を撫でるようにして耳を触ってきた。 「本当にちゃんと生えてるんだな。手触りも本物そっくりだ」 感心したように撫でるその手つきは優しい。 この年になると父親に頭を撫でられることなんてそうない。 どこか気恥ずかしいのと、くすぐったいのとで龍臣は龍正の手を払うように首を振る。 そんな反応を見て龍正は笑った。 「そうしていると本当に犬みたいだな」 「な…」 言っていいことと悪いことがあるぞと龍正を睨むが、当の本人はやはり面白そうに龍臣の腰辺りを指差した。 不思議に思って差された方に視線を向ければ、なんと尻尾がゆらゆらと揺れているではないか。 まさか龍臣の意志に関係なく感情を表しているというのか。 龍臣は顔に熱が昇ってくるのを感じながらも、ビタンとその尻尾を手で押さえつけた。 またしても龍正が笑う。 「そんなに慌てなくてもいいだろ。いつもより素直で可愛いじゃないか」 「…うるさい」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加