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ギッと恨みがましそうに龍正を睨むその瞳にも、いつもの迫力はない。
人のことを可愛い可愛いと…普段なら言われることのないその言葉はまるで馬鹿にされているようだ。
龍正は不機嫌になってしまった龍臣に、少しいじりすぎたかと苦笑した。
「そう怒るな。とにかくその姿のままなのは色々と不都合だな。俺も原因を調べといてやるから、今日は早くに寝ることだ」
「そのつもりだ」
ぶすりと答える龍臣は、再びフードを被り尻尾をしまうと立ち上がる。
そのまま部屋を出ていく龍臣を、龍正は見送った。
龍正の部屋からなら自室もすぐそこだ。
やっと帰れるのかと肩を落とす。
歩き出すと、すぐに中庭が見えてきた。
そして同時に視界に入る灰色の頭。ロウだ。
彼は池をぼーっと眺めていた。
一度ロウに耳のことを聞こうと思っていた龍臣だが、今はそれが億劫に感じられた。
だからそのまま背後を通り過ぎようと歩き出したのだが、それは叶わなかった。
ロウの背後に辿りくより先に、ロウが驚いた表情でこちらを振り返ったからだ。
それから龍臣を凝視してくる。
穴が開くのではというほど見てくるロウにたまりかね、龍臣は口を開いた。
「…なんだ?」
「いや……」
答えながらも、縁側から腰を上げ龍臣に近づくロウ。
その瞳が何かを探るように細められた。
一体なんなんだと眉を潜めたその時、ロウはおもむろに龍臣に顔を近づけたのだ。
まるでキスでもしそうな距離まで近づいたかと思うと、顔を逸らし龍臣の首辺りで鼻を鳴らす。
驚きで言葉を発せなかった龍臣を余所に、ロウは再度顔を離して龍臣を凝視した。
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