79人が本棚に入れています
本棚に追加
そしてその次の日。
それは粟島と龍臣がいつものように外交の仕事に出ていた時。
3件目の取引相手との談判が終わり、龍臣たちは次の相手の所に向かうため車に乗り込んだ。
次の談判で今日の外交は終わりだ。
「次は傘下の赤松の所ですね。何やら資金のことで相談があるとか」
「…ああ」
「赤松は傘下に下ってからそれなりに月日も経っていますし、無理な値段でなければ交渉の余地はあると思いますが、どうされますか?」
「……そうだな」
「……若?」
運転をしながら次の相手との談判について確認を始めた粟島だったが、いつになく龍臣の反応が薄い。
丁度赤信号で車が停まったので、助手席に座る龍臣の様子を窺った。
「若?どうかしましたか?」
「…ん?なにがだ」
どこか上の空だった龍臣は、漸く視線をこちらに向けた。
外交関係の仕事が苦手で疲れを感じていたとしても、こんな風に注意が散漫になるなんてかなり珍しい。
粟島は無意識に眉間にしわを寄せ、我知らず小さく息を吐いた。
「聞いていませんでしたか?次の相手の赤松のことですが」
「え…ああ悪い。もう一度話してくれ」
僅かに目を開き、自分でも驚いたように龍臣は詫びた。
無意識のことだったのだろうか。
そんな龍臣を訝しく思いながらも、粟島は再度説明を始めた。
……今思えば、彼のあの態度は何かを暗示していたのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!