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まるで甘えるようなその動きに、ロウの頬に赤みが差す。
いつの間にかパーカーから出ていた尻尾は頼りなく垂れ下がっている。
一体龍臣はどうしてしまったのかと慌てるロウだが、このままではいけないということだけはわかった。
ここは廊下で、いつ人の目につくかわからないし、何よりロウ自身色々と保たない。
今日の龍臣からは、とてもいい匂いがする。
それは同種だからこそわかる、フェロモンのようなものだった。
多分このままの状態が続けば、ロウは自我を保てなくなるような気がする。
名残惜しい気持ちを呑み込みながらも、龍臣の肩を押した。
「た、龍臣」
「…あ?」
どこか呆けていた龍臣はハッとして体を離す。
変だったのは一瞬だけだったようだ。
「…悪い、なんか眠くなった」
額を抑えて目を瞬かせる龍臣は、先ほどの行動を眠気から来るものだと思ったようだ。
だがしかしロウは気付いていた。
龍臣も、ロウと同じ気分になってしまったのではないのかと。
獣独特のフェロモンにあてられたのだと。
そう考えただけで、ロウの心臓が早鐘を打つ。
「…ならもう寝ろ。よくわかんねえけど、それも寝たら治んじゃねえの」
それ、といってロウが犬耳を指差せば、龍臣は頷いた。
今の龍臣はまるで警戒心がないようだ。
ロウの匂いがそれほどお気に召したのか、頷きながらもすぐに動こうとはしない。
さっきよりも体は離れているが、未だに龍臣の手はロウの服を掴んでいる。
まるで離れがたいと言われているかのようで、ロウは焦った。
「ほら、さっさと部屋戻れよ」
「…ああ、そうだな」
肩を掴んで急かせば、龍臣は半開きだった瞳をゆるゆると開き、漸く手を離した。
そのまま自室に行くのかと思ったが。
龍臣は動き出す直前に、するりとその尻尾で同じく尾てい骨から生えているロウの尻尾を撫でたのだ。
それは親しき獣の間で交わされる行動の一種。
龍臣は何気なく行ったのかもしれないが、ロウの方は気が気ではなかった。
そのまま自室へと去っていく龍臣の背中を、真っ赤な顔で愕然と見ていたのは言うまでもない。
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