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これは面倒なことになった。龍臣はすぐにでもここから逃げ出したくなる。
どうやら今までの成り行きをあっちの世界から見ていた亜笠は、龍臣で遊びにきたようだ。
人が大変な思いをしているというのに、亜笠にとっては面白いことが起きたくらいにしか思っていないのだろう。
一度は頭を振って亜笠の手から逃れた龍臣だが、亜笠の手は懲りることなく耳を触ってくる。
感触を楽しむように撫でたり掴んだりしてくる亜笠に、龍臣は手を上げようとした。
しかし目敏くもそれに気づいた亜笠に、振り上げた手を片手で抑えられてしまった。
「まあまあ。ちょっと触るだけじゃねえか」
「俺は寝たいんだ」
「それなら寝てていいぞ。俺は勝手に触っとく」
それができたら苦労はない。
ただのお飾りな耳ならどうぞご勝手にと触らせておくこともできるだろうが、なんせこの耳は本物で、感覚さえも備わっているのだ。
触られれば嫌でもくすぐったく感じてしまう。
そんな状況で寝ろと言うのか、この悪魔は。
ギロリと睨みつければ、亜笠は仕方ないなあといった表情をした。
まるで龍臣がわがままを言っているかのような態度にカチンときたが、抑える。
さっさと魔界へ戻ってしまえ。
「耳は駄目か。ならこっちはどうだ?」
しかし亜笠は諦めるのかと思いきや、今度は尻尾を触ってきたのだ。
微弱な力で握り込まれ、そのまま毛先まで下りていく亜笠の手に、無意識に龍臣の体が跳ねた。
ゾワリとした嫌な感覚が背筋を襲い、条件反射のように尻尾を引っ込めようとしたが、またしても亜笠の手に阻まれる。
ギュッと掴まれた尻尾は動きを封じられ、なすすべが無い。
「おい亜笠…!」
「そんな反応されると、嫌でも反抗したくなるんだよ。タツ」
愉しそうに弧を描く亜笠の瞳。
「っ…」
継続的に襲ってくる嫌な感覚に、龍臣は眉をしかめた。
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