79人が本棚に入れています
本棚に追加
そしてまたその次の日。
夕方の時間、龍臣と佐竹は急遽入った仕事で外へ出ていた。
仕事の方は何事もなく完了し、二人は見回りも兼ねて徒歩で本部まで帰ることにした。
商店街から離れ、民家の中を歩いていると、ふと龍臣の足が止まった。
「どうしました?」
佐竹も足を止める。
問いかけた佐竹の言葉に何も返さず、龍臣はある一点を見ていた。
右方向の曲がり角の先を凝視している。
不思議に思い佐竹もそちらを見てみたのだが、そこには恋人同士が犬の散歩をしている姿があるだけで、他にはこれといって気になるものはない。
一体龍臣は何をそんなに凝視しているのか。
佐竹は龍臣の左隣を歩いていた為、彼の視線を追うことが出来なかったこともあり、その時はわからなかったのだ。
「若さん、何か気になることでも?」
もう一度問いかけると、龍臣はやっと顔を佐竹の方に向けた。
「…いや、なんでもない。帰るぞ」
「あ、はい」
ちらりと向けられたその瞳には、なんともいえない感情が浮かんでいたようで、佐竹はそれ以上何かを聞くことを阻まれた。
それからは家に帰るまで特に変わった様子はなく、佐竹もその時のことは気にしないようになっていた。
しかしふと、龍臣はあの瞳をするのだ。
何かを望んでいるのに、それが叶わないことであると諦めているかのような瞳を。
最初のコメントを投稿しよう!