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「どいた、どいたっと」
ウサギは声を張り上げる。ぽっかりと空いた歩道に、ズドッと生身で降り立った。
周りの人間は驚いて、急いで携帯を取り出してカメラを向けたりしている。ネットに疎い老人たちはただ単に生身で高層ビルから飛び降りた事に驚いているようだ。
あまり目立つことは好きではない。ウサギはすぐに駆け出した。
普通の人間が出せる速さを遥かに超えた速さで路地を駆け抜ける。
すると、突如後ろから大声が聞こえた。
「ウサギィッ! てめぇこの野郎!」
その声と共に、背後からビュっと何かが飛んでくる。
「っぶね」
ギリギリでかわす。ウサギがいた位置には、ビニール傘が突き刺さっていた。
コンクリートで出来ているはずの歩道に、である。
「あのさぁ、矢文にしては危険すぎない?刺さったら死ぬよねこれ」
ぼやく。
背後ですごい勢いで誰かが走り、追いつこうと必死になっている。
ウサギはひらりと街灯の上に飛び乗ると、その人物を待った。
バタバタと人混みをかき分け、現れたのはやはりあの男だった。
「ウサギィ、お前今日こそ許さねーぞ」
「やっぱ君か、成原幸希」
ざわっと人混みが彼を避けるようにうごめく。
「ってか上から話しかけんな、俺の方が年上だろうが」
「成原さぁ、いい加減に僕にちょっかいだすのやめてくれない?」
成原はムッとしたように見えた。いきなり手近な石を掴むとこっちに投げてくる。
銃弾のように飛んでくるそれをすっと避けて、ため息をついた。
「僕、これから仕事なんだよね。用がないなら行くよ?僕」
「ちょっと待て、何の仕事だよ」
「あのさ、ねぇ、君って僕の父親なの?君みたいな腕力馬鹿には興味ないね」
ウサギは電灯からひょいっと飛び降りて、街をフラフラと歩いたと思うと、電線をつたって、ビルの屋上へ飛び乗って何処かへ消えた。
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