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成原はふうっと息を吐いて、ウサギの消えた方向を眺めていた。
「やれやれ… お子様の子守も疲れるこった」
携帯を取り出し知り合いの情報屋にかける。周りの見物客がうざったくて、裏路地へ入った。
「もしもし… 俺だけど。あぁ、成原だよ。…そうだ。わかった、任せろ」
短く話して通話を切る。端末をポケットに滑り込ませ、彼は路地裏を歩き続けた。
東京で最恐の自称喧嘩屋、成原幸希と、東京で最強の便利屋、ウサギ。
彼らが力の限りを尽くして走り抜けた、一夏の物語。
ウサギは軽々と屋上を飛び越えながら、目的地へと向かっていた。
正直、成原に仕事の内容を聞かれた時、どきりとした。
なぜならいつもよりも危険な仕事に向かうつもりだったから。
相方の女にも黙って受けた仕事は、場合によっては重傷を負いかねないものだ。
相手は銃を持っている。
仕事を依頼してきた相手は少なくともそう言っていた。相手は裏の社会の人間だと。
依頼内容はこうだった。
相手は若い男だ。彼は待ち合わせの場所に着くなりこう言った。
「俺は脅されたんだ。銃でな。金を出さなければ撃つと言われて、出したよ」
男は唇を噛んで言葉を絞り出す。
「五万円だ。住所と名前を教えろと言われて、教えちまった。これから度々お世話になるぜと言われた。俺はたかられたんだ。警察に言えばバレる。俺はあいつらが捕まる前に殺されちまうよ。
頼む。もうお前しか頼りがないんだよ。都市伝説なんか信じたかねぇけど、お前なら何とかできるんじゃないかって思ったんだ。なぁ頼む」
ウサギは聞いた。
「いくらくれる?」
男は答えた。
「金が…いるのか」
ウサギはぷっと吹き出して、ゴーグル越しに痩せ型の男を見る。
「バッカじゃないの。タダで救おうとされるわけ?僕は同情で人助けしてんじゃないんだよ。あんたがいくら可哀想な境遇だろうと、僕だって命大事だもの」
スニーカーのつま先をトントンとコンクリートの地面にぶつけて、
「まぁ、金額が安いからって受けないわけじゃない。そこらへんは差別はしないから、安心しなよ」
男はいくらか救われたように顔を明るくした。
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