わたしの気持ち

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彼が私を案内したのは2階の奥にある部屋だった・・・。 大きな両開きの扉を開けると、どこかで見たことのある彫像が目に飛び込んで来た・・・。 ニケ像・・・だったかしら・・・? 私はそう思いながら彼の後に続いて部屋に入った。 背中に翼の生えた、首から上と両腕の無い女神像・・・あるいは天使像なのかしら・・・。 ああ、そう言えばいつだったか・・・彼は私の事をニケ像の様に美しいと言っていた・・・。 でも私にはこの像は、力強い印象こそ受けたけれども・・・ミロのヴィーナス像の様に・・・美的な感覚は感じられなかった。 彼はこの像の何処に惹かれたのだろうか・・・。 「如何ですか・・・。」 私が、ニケ像に気を取られ・・・色々と考えていると・・・彼が言った。 「・・・。」 私は無言で答えると・・・ニケ像を中心に飾られている彫刻品や絵画・・・を見た・・・。 マグリッド、ダリ・・・ピントリッキオ・・・グイド・レーニ・・・キリコ・・・と言う・・・作品群・・・。 あるいはもっとなのかもしれないが、一貫性の無い絵画や版画・・・勿論全てレプリカであろうが・・・何というのか、全てが纏まりなく並んでいた。 彫刻は名も無い作者の作品ばかりとは思うが・・・首が欠損していたり、手や足が欠損していると言ったようなこれもまた特異な彫刻が集まっていた・・・。 「この部屋に人を入れるのは初めてなのです・・・。」 彼は、恥ずかしそうにそういい・・・続けた・・・。 「だって、画は纏まりがなく・・・像に至っては完全な物など一つもないのですから・・・。」 彼は、そう言うと・・・じっと・・・ニケ像をそのレプリカを後ろから見詰めた・・・。 私は、その彼の視線に何か背中が粟立つ様な、今まで彼には感じなかった・・・ある意味凍える様な感覚を感じた・・・。
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