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その晩、私は部屋の片隅で・・・じっと、飽くことなく外の景色を眺めていた。
何となく眠れなかった。
かといって、眠剤の世話にはなりたくなかった・・・。
私は、眠れないのではなく、寝てはいけないと思っていたのかもしれない。
ひゅう・・・と窓に吹き付ける風音・・・月明りの中にぼんやりと浮かぶ奥秩父の景色・・・葉を落とした木々が崖の上や中ほどに立ち並び・・・眼下を流れる川の水面が時折月の光で光った・・・。
彼が案内してくれた部屋・・・私には分からない・・・人には趣味があるのだろうけれども、身体の一部が欠損した彫像のレプリカ・・・私はその集まりに胃液が逆流してくるかのような感覚を感じていた。
人には趣味や嗜好がある・・・私は、そう自分にいい聞かせて納得させようとしたけれども、私の心の中にある疑心暗鬼を解消させることは出来なかった・・・。
私は立ち上がると、サイドボードの上に置いてあるポットから珈琲をカップに注いだ。
珈琲は少し温くなっていたけれども、美味しかった。
私は珈琲カップを抱えながら・・・また窓へ戻った。
彼の事を考えていた・・・。
そう、彼は・・・私の事をどう思っているのだろうか・・・私をどうしたいと思っているのだろうか・・・何故・・・。
私はそう思っていた・・・。
そんなことを考えている内に・・・冬の遅い太陽が昇って来たのが分かった・・・。
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