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毎朝の診察、彼はいつも通りだった。
何日か朝帰りに近い状況だったのに、それを咎める事さえなかった。
私は奇妙な感覚を覚えたが、彼が何も言わなければそれでいいと思っていた。
ただ気になっているのは栄養剤で、これを打つと数日は元気でいられるのだが・・・薬の効果が切れる不眠と焦燥感と気怠さ・・・そして・・・以前よりも強い死への願望が顔を出すようになった。
もしかして、栄養剤なんかではなく麻薬か何か・・・?
私はそう思って彼に聞いたが、彼は重危篤で痛みから逃れさせる以外にその手の薬を使った事はないと言った。
私は彼の言う事を信じるしかなかった・・・。
そして、夜遊ぶお金が無くなりかけて・・・私は彼に例の倶楽部へ行きたいと話しをしたた。
彼は私の言葉に笑って言った・・・。
「もう、あそこへ行く必要はなくなりました。」
そして・・・白衣のポケットから無造作にお札の束を何個か取り出して・・・言った。
「君の御客からです・・・有難う、楽しみにしていると仰ってましたよ。」
彼の抑揚尚ない声に、私は聞いていた・・・。
「楽しみにしているって・・・?何の事でしょうか・・・?また、会えると言う事でしょうか・・・。」
私の言葉に、彼は言った。
「そうかもしれませんね・・・いえ、確実にそうでしょう・・・。」
彼はそう言うと・・・続けた。
「来週の半ば、別荘へ行きましょう・・・。
それまでは自由にして下さい。
それだけのお金があればいいとは思いますが、もしも足りなければ言って下さい・・・。」
彼はそう言うと、私の身体を頭の先からつま先まで・・・ねっとりと見詰めて頷いた・・・。
私は彼のその行為に・・・以前別荘に行った時の彼のニケ像を見る・・・気色悪さを思い出し・・・彼の顔をただ・・・見詰め返していた。
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