これでお終い

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声は出なかった・・・。 出せば出たのかもしれないが恐怖と気持ち悪さで歯の音が合わず・・・ガチガチという音だけが私の頭の中に響いた。 動く目で彼の顔を追う・・・。 彼は私のそんな行為を意にも解せず、モーツァルトの有名な歌劇の一節を鼻歌で歌った・・・。 彼がこんなにも陽気でいたことがあったろうか? いつも大人しく、紳士的で決して羽目を外さない・・・そんな印象の彼が今日は子供がおもちゃを買ってもらったかのように喜んでいる。 彼は、またもや私の顔を覗き込むと言った。 「病院で初めて会った時から・・・君しかいないと思った・・・。 均整の取れた美しい身体と白い肌・・・。 一部を他の人間に売ってしまうとは言え、一番欲しい所は僕の所に残る・・・。 ああ、待ち遠しいよ。」 彼がそこまで言った時・・・執事が部屋の中に入って来て小声で何やら話しかけて来た。 「全く・・・審美眼の無い奴らばかりだ・・・血を抜き、肉と骨を外し・・・人工の肉と骨に入れ替える・・・これだけども相当の苦労があるっていうのが分からないのか・・・彼らは・・・。 まあいい、予定の期日には仕上げると言っておいてくれ。」 彼はそう言うと、隣の机に無造作に積まれた札束を一つ・・・二つ・・・と掴むと言った。 「さて・・・君の戸籍は全て抹消した・・・私の病院での滞在記録も無い・・・夜の街に行けば君を思い出す連中もいるだろうが果たして半年、1年先まで君を覚えてくれている人がいるだろうか・・・? 僕は違うよ・・・君はここで僕を楽しませるためだけに・・・一緒に美しくあり続ける・・・。 一生離さない・・・。 さて、準備に取り掛かるとするか・・・。」 彼は札束を古い鞄の中に片付けると車に積んで来たトランクの中から・・・鋸や、ハンマーなどを取り出して丁寧に並べ始めた・・・。 私はやっと自分の立場が分かった・・・私はあのニケ像のレプリカの代わりに彼のニケ像かミロのビーナスになるんだ・・・石像ではなく・・・現代医学を駆使した生ける剥製として・・・ずっと・・・ずっと・・・この裏寒い屋敷に居るんだ・・・。 私は何も考えたくなくなって目を閉じた・・・彼が何かを置いたりする音だけが耳に聞こえた・・・。
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