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私は、じっと目の前に横たわる彼を見ていた・・・。
ツンと血の匂いが鼻を突いた。
ああ、そうだ・・・彼の執事が気が付く前にここを抜け出さなくては。
私はそう思うと、鞄を持って部屋のドアを開けた・・・。
部屋を出てゆっくりと自分にあてがわれていた部屋に向かう・・・部屋の鍵は開いていた。
私はベッドの上に無造作に置かれていた下着と服を身に纏うと、部屋を出て・・・ゆっくりと、ゆっくりと廊下を歩き、外へ出た・・・。
幸いなことに執事に会うことはなかった。
私は、白い息を吐きながら、朝から昼へ移りつつある彼の別荘を後にすると、道を・・・下った。
上手く行けば車に出会うかもしれない・・・。
体が思うように動かない・・・体力が落ちている・・・。
私は見通しの悪いカーブの前でよろけた・・・鞄の重みで身体がふっと・・・車道に出た・・・。
その瞬間・・・私は身体に衝撃を受けて・・・道路に転がった。
鞄は・・・鞄は・・・?私は鞄を探した・・・あった・・・でも、何故・・・私の目の前の景色は赤いの・・・?私は手を伸ばした。
手が何か生暖かい液体に触れた・・・ゆっくりと手を目の前に引き寄せる・・・ああ・・・血だ・・・赤い・・・私の・・・そうか、私は・・・ここは夢の中・・・?
昔から見ている夢の中・・・赤い血の中でのたうち回る私・・・夢・・・現実なの・・・?そして、誰かが私の耳元で何かを囁いていた・・・。
その声は何を言っているのか私には聞き取れなかった・・・。
ただ、私は思った。これは現実なのだと・・・そうであれば・・・わたしの一生は何だったのだろう・・・?まるで出来の悪い小説の様ではないか・・・そうか、そうなのか・・・。
私は赤い、赤い景色を見詰めながらそう考え・・・そして永遠に意識を手放した・・・。
ーFinー
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