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一年前、シャッターが目立つ商店街の外れ。
人もほとんど通らない薄暗い道で、俺はこの女を初めて見た。
派遣先からクビを切られ、怒り不安悲しみで頭をかき 回されながら歩いていたこの俺の目の前を、廃屋から覗くわずかな夕日に照らされた長い黒髪のセーラー服が通り過ぎていった。
ひょっとすると、いつもすれ 違っていたかもしれない。
だが、その女を認識したのは、その日が初めてだった。
引き千切りたい。
歩き去っていく女の背中を見て、そう思った。
だがすぐにそれを否定した。その頃はまだ倫理が残っていた。
翌日の夕方、俺はまた、同じ場所にいた。女もまた現れた。
おそらく高校二年生ぐらいだろうその女は、俺と同じ人間とは思えぬほどに繊細な足で歩き、一瞥もせず俺の前を過ぎ去っていく。
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