第1章

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3 沖縄 ヨットハーバー 午前3時37分  宮本美樹と知念浩二の二人は、少し淡くなってきた空を見ながら、高速船<ブルースカイ>号の出航の準備を整え、軽くチョコレートを摘まみながら、今日行くダイビング・ポイントについて確かめ合っていた。今、二人は、数分前に聞こえた派手な物音と、つい先ほどから水上バイクのエンジン音に不可思議さを感じていた。この港には水上バイクの保管場もあり季節になれば多くの海男たちが近くのビーチに運び楽しんでいるが、今は11月、しかも早朝というにはまだ少し早い時間だ。長く海遊びして来た宮本と知念にも、こんなことは初めてだ。だがそれ以上不信感を抱くことはなかった。  そんな時だった。 「あの、すみません。釣り船を探しているんですけど分かりませんか?」  突然少女の声が聞こえ、彼らは一瞥し、「知らないよ」と答えた。  少女は不器用に携帯でナビを見始めた。 「おかしいな…… 別のヨットハーバーだったのかな」  ……なんだよ、ワザと聞こえるように呟きやがって……  この手の若者や観光客は多い。相手にするのは時間の無駄だ。二人は相手にしないよう無視をしていたが、つい少女の顔を見て態度が変わった。  そこにいたのは、着慣れぬライトジャケットにアウドドア服と釣竿を持った、金髪が腰まであるモデルのような絶世の美少女だったからだ。暗がりでも、はっきりと類い稀な美貌とスタイルに、二人は急に気を変え、相好を崩し、愛想よく挨拶しながら船から下りてきた。 「実は友達と妹と、釣りをする約束で…… でも、あまりこの辺りのことが分からなくて」 「日本語上手だね君! 友達って男?」 「いえ。よくわからないんだけど、船釣りの予約して、それで」 「そりゃ釣り船の港、この先のほうだね」  さっきまでと違い、優しく少女…… エダの携帯電話を覗き込み地図を見ながらアドバイスした。エダもそれを無邪気に聞いている。間近で視るとテレビでも見たこともないような清楚で秀麗な美少女だ。  3分ほど、この辺りで何が釣れるのか、どのあたりがポイントか、宮本と知念は何をしにきたのかなど簡単に話した後、若く、肌が見事に焼けた知念がさりげにエダの肩に手を置き微笑んだ。 「よかったら、さ。俺たちの船に乗りなよ。タダだし、釣りを教えてあげるし、冷えたビールやシャンペンもあるから♪ 妹さんもこの近くかな?」
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