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バスの窓を開けると、少し肌寒い風が車内に入り込む。秋も深まる十一月、さすがに身震いを感じた俺は、すぐに窓を閉めた。東京から五時間、旅の疲れが出てきたのか、意識が朦朧としていた頃、アナウンスが鳴った。
「次は~高津模(たかつぼ)~高津模~」
矢野秋也は飛び起き、停車ボタンを押した。
「いやしかしお客さん、あなたも物好きですねぇ」
バスを降りる直前に、矢野は運転手にそう話しかけられた。
顔を向けた矢野に、運転手は続けてこう言った。
「”あんなこと”があったここに、わざわざ東京からお越しになるなんて」
矢野は、平然とした顔で言った。
「ええ。よく分かってます。だから来たんです」
矢野はバスを降り、舗装された道路の脇を歩き始めた。
そして、ある場所で立ち止まった。
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