「さよなら」というラブレター

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「さよなら」というラブレター

唐突だが、転校することになった。 中流企業の経営者だった父は、俺を全寮制の男子校に進学させたがった。 お金持ち学校で有名なそこに進学しなかったら名に傷がつくだの、卒業したら箔がつくだの、なんだのと言って。 拒否権など無いに等しい俺は、嫌々ながらもそこに通わざるを得なくなった。 の、だが。 その父の事業が盛大に失敗。会社は潰れ、多くの借金を残したらしい。 まあ、無駄に広かった家の土地やらを売って、ずいぶんと借金は減り、ちゃんと働けば四、五年で返せる金額になったそうだ。 が、バカみたいに金のかかるこの学校に通い続けることは難しかったようで。 県立の高校に編入してくれと言われた。 まあ、親の金で学校に通わせてもらっているしている以上、拒否権など無いわけで。 というかむしろ、高校中退にならないだけ、ましなのかもしれないが。 「あーあ、」 初めの頃は嫌々だった男子校への進学だったが、いざ転校、となった今は、──この学校に留まっておきたい、という気持ちが強くあった。 クラスも一緒で寮部屋も一緒のそいつ。 少しばかり口は悪いが、根の優しいそいつ。 帰宅部のくせに、無駄に運動神経の良いそいつ。 隣に居るのが、当たり前の存在になってしまった、そいつ。 気持ちを伝える勇気はなかったから、そばに居られるだけでよかったのだけど。 もうそれすらも叶わないようだから。 用事があるといって出掛けたそいつに、いってらっしゃい、と声をかけた時は、ちゃんと笑えていただろうか。 最後の絡みになるのなら、もっと話題を作っておけばよかった。 なんて考えても、今更で。 すでに荷物は新しい家、なる住所に送っているので、今日付けで解約になるスマホと財布、その他もろもろが入ったバックを手に取る。 顔を見て、直接言うことのできない俺を許してください。 共有スペースにあるテーブルの上に置いた、走り書きをした紙。 そこに書いたのは、『さよなら』の四文字だけ。 お題元:確かに恋だった 実は主人公→←そいつ 置き手紙だけで音信不通になった(スマホ解約したから)主人公を、有名企業の息子である"そいつ"は全力で探し出します。
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