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「あ……」
あの日と同じだ。
綾を見つけたあの晩と。
服も時間帯も違う。
でも、確かにあの一番大きな木の下で、綾は座り込んでいた。
風が吹いて黒髪が風に揺れる。
木々がざわめき、綾の顔に陰がかかる。
その儚げな様子に、胸をぎゅっと鷲掴みにされた気がした。
ふらりと吸い寄せられるように綾の元へと向かうと、下から黒い瞳が俺を見つめる。
これも、あの日と全く変わらない。
「なんか、懐かしい気がする」
「何が?」
「デシャヴ……って言っても伝わらないか。既視感っていうの? ここ、私来たことある?」
「……あるよ。俺、ここで綾を見つけたから」
桜の散るあの夜のことは、今でも鮮明に覚えている。
綾は納得したような顔をすると、スクッと立ち上がった。
「ここで、あんたに出会っちゃったのね」
「ははっ。ひでー言い方。運命の出会いだよ」
”あり得ない”とか”馬鹿じゃない”って言葉が飛んでくると思った。
「ん、そーかもね」
だけど予想に反した返事に、俺は言葉を返すことが出来なかった。
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