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ナツキさんは持っていた小さな赤いバッグから名刺を取り出し、俺に差し出す。
「自己紹介がまだだったわね。樋口夏輝よ。心は女、身体は男。でも女好き」
簡潔な自己紹介と共に名刺を受け取ると、そこには樋口夏輝という名前ではなく、NATSUKIという一人のデザイナーの名が記されていた。
この人は、クリエイターなんだ。
創造する人間。
姉の世理もそうだが、創造する人間は一種独特の雰囲気を持っている。
変人だということではない。
「あ、俺は」
「知ってる。京ちゃんから聞いてる。世理っちの弟なんでしょう?」
「きょ、京ちゃん……」
「京ちゃんとアタシはただならぬ仲デッ」
いつの間にか現れた斑目さんに夏輝さんは腰を蹴られ、時代劇の様にヨヨヨとソファーにしな垂れかかった。
恨めしそうに見上げた夏輝さんの視線の先には、斑目さんが満面の笑みでいる。
胡散臭いくらいに。
「誤解を招くような言い方は止めろ。理音くん。夏輝は俺の腐れ縁で、それだけだ」
「キスはしたワッ」
再び蹴られた夏輝さんはもう顔を上げることはなく、ソファーに突っ伏してしまった。
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