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紅蘭はそう言って哀をおろすと哀は辺りを見回し、紅蘭から視線を逸らした。その瞬間に紅蘭は姿をくらませ、目当ての物を買いに行った。
哀は独断行動になったが、やることはなかった。一人で出歩く事が怖かった。降ろされてすることのなくなった哀は近くの壁に寄りかかり、紅蘭の帰りを待った。哀は紅蘭の事を考えた。手の甲の契約の印。今の哀は人並みの感情を持っている。人混みは怖かった、人間が怖かった、妖怪より。人間としての代表者が哀にとっては父親だった。哀にとって父親はただ暴力を振るい、怒りを自分に向かって発散させる。そんな人だった。
(紅蘭早く帰って来ないかな…)
哀は路地裏で野良猫を見つけ、人懐こかったからしゃがみなでていた。路地裏は人が来ず、哀にとっては落ち着ける場所だった。だが、野良猫はしばらくしたら何処かへ行ってしまった。哀は追いかけたら前みたいに襲われる、と思い野良猫を見送った。
(………)
ふとガラス張りになっている店の前で立ち止まった哀は自分があまりにも醜い事を再認識した。紅蘭は周りから見ると結構美形な方だろう。それに比べて自分は包帯まみれでろくに笑えもしない。哀はそんなのわかってた、そう思いつつガラスから目をそらし、人のいない方へ行った。
はいつの間にか森に行った。人のいない、そして居心地が良かった。辺りを見回し誰もいないことを確認してそっと大きな気に触れた。そして木を撫ではじめた。哀は街からずっと視線を感じていた、人目のない場所に行けば感じないと思って森に来たのだが、今だに感じる。哀は人の視線には敏感だった。
「貴方が秋月哀さんですか?」
「っ…だ、れ……?」
哀はびっくりし、警戒体制に入った。少し距離を起き、自分の服をぎゅっと掴んだ。相手は見るからに人間じゃなかった。黒い羽をぱたぱたさせ、草を片手に礼儀正しくお辞儀をした。礼儀正しい妖怪…?と考えたがどうして自分の名前を知っているんだろうと思い哀は警戒心を解くことはなかった。
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