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そこにはさっきまでいた男がソファに座って雑誌を読んでいた。集中しているようで声をかけづらかった。子供は静かに近寄り、ソファのすぐ傍に座った。
「ん?終わったか?」
「一応…」
子供はこくりと小さく頷き、シャツが大きいと男に分かってもらうために立った。すると男は意図を汲み取れず、子供を抱き上げ、自分の上に向かい合うように座らせた。そして子供のシャツに顔を近づけ、匂いを嗅いだ。もう臭くねぇな、そう満足そうに言うと子供は少し離れ顔の見える位置に移動し会話を始めた。
「どうしてここまでしてくれるんだ…?」
「気まぐれ」
子供は戸惑った。どうせ食べられると思ってきたのでこんな歓迎らしきものをされ、その理由が気まぐれだということに。
男も戸惑った。人間、ましてや子供。一番嫌いなもののはずなのになぜか助けていることに。
「お前、何者なんだ…?この耳と尻尾」
子供は耳を恐る恐る触りながら疑問に思っていることを素直に言うと男は当たり前のことを聞かれているような顔をした。
何言ってんだこいつ、と。
「見ての通り狐だ」
「は…?」
――ガチャ
ドアが開く音がした。その瞬間狐はやべ、と小さく声に出し子供を抱き抱え窓の外へと飛び降り、森へと行った。行動の意味がわからない子供は混乱していた。
狐は森の中の大きい木の前についたかと思うと座り、子供を下ろした。
話によるとさっきの場所は別に狐の住処ではなく、ただ勝手に入った他人の家だったらしい。何をやっているんだと子供は思いつつ大人しくしていた。
子供は感情を表に出すことは滅多にないくらい無表情だった。狐は怯えた顔と普通の顔しか見たことはなかった。
「ん?なんだ尻尾触りたいのか?」
狐が子供の顔に尻尾を押し付けるように当てると子供は恐る恐る触り、異常のモフモフ感を気に入ったのか目を輝かして尻尾を触り始めた。
狐はそんな子供を見ながらそういえば名前しらねぇと思いつつ長い爪で子供の髪をいじった。
「…どうかした?」
「 お前、名前なんて言うんだ?」
「秋月、哀、……え、と、秋に月で秋月、哀は哀れむの…」
まだ子供…哀は必要以上に近づこうとはしなかった。そんな哀に狐は面白そうと興味を抱いた。狐は哀の腕を引っ張り、抱き寄せた。狐は静かに笑った。
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