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哀が目を開けた時には紅蘭はまだ寝ていた。哀は何かを思いついたように寝床から抜け出した。
「ん?哀…?」
紅蘭が寝ぼけたまま辺りを見回したが哀の姿がなかった。紅蘭はどこに行ったんだろうと契約の証のついた主を探知すると丁度街から帰ってくるところだった。寝起きは悪い方だったが紅蘭は哀を迎えに行ったが、哀の様子がおかしかった。
「哀、お前勝手に出歩くんじゃねぇよ…って哀?」
哀にしては珍しく紅蘭にすり寄って来た。紅蘭は何かあったと確信したがあえて聞かなかった。哀を抱きかかえるとそのまま歩いて家に帰って行った。
「あ…こ、紅蘭、」
「ん?」
「こ、これ…」
哀は指輪を差し出した。紅蘭は意味がよくわからず取り敢えず受け取った。哀は相変わらずあんまり関わらないようにと変なこと、言わなくていいことを言わないようにと、言葉を選び、ゆっくりと最低限の言葉をつなぎ合わせた。
「お、れい…助けてくれた、から…、」
そう言って不器用にはにかむ哀を見て紅蘭は可愛いなとか思いつつ頭をくしゃくしゃなでてさんきゅと小さく言うと何処の指にはめようと悩んだ。が、期待を裏切るように哀が何処からともなくチェーンを出した。指につけずにネックレスにしようとしたらしい。
「ちなみに哀のもあるのか?」
「……お金、俺は持ってなかったから、」
紅蘭は哀にお金を渡したことはなかった。哀がお金を持っていたことにびっくりした紅蘭だったが、元から持っていればまぁおかしくもないと考え、今度同じものを哀にも買ってやるか、と 思いつつ哀からチェーンを受け取り指輪を掛けた。
「どうだ?にあってるか?」
紅蘭はご機嫌でそう聞くと哀は戸惑ったように頷いた。哀の表情はまだ紅蘭にしか区別をつけることはできなかった。でも哀は紅蘭としかはなさず、目も合わせなかった。この時の哀は少し笑ったように頬を緩めていた。
「さて、機嫌がいいからちょっと遠くの街まで行くか」
遠くと言っていつも行ってる街の隣だった。雰囲気も店も売ってるものも大して変わらなかったが、少しの違いが哀の興味を引いた。哀は案外頭が良く、記憶力が優れていた。普段行っている街にないものなんてすぐに分かった。が、それを自分から見たいとは言わなかった。ただただ遠巻きに見ていた。
「ん、ちょっと哀、そのへんウロウロしてていいぞ、ちょっと買いたいもんができた」
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