第2章

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ミキさんは槙の母で、街の片隅で定食屋を営んでいる。 小さな店だが、知る人ぞ知る名店。 その自慢話を、渚はよく母親から聞かされたものだった。 「ハイハイ。  でも、こういう大事な物を  私に預けていいわけ?」 槙が挑戦的な目で女を見た。女は一瞬黙ったが、すぐに口の端を吊り上げる。 「…見てみれば?あんたの  特になるようなことは無いと思うよ」 「……」 「どうせ見やしないでしょ。  そんな意味の無いこと聞くなんて、  らしくないんじゃない?」 「仲よくしなきゃだめだよ?  同じクラスなんだから」 メグムの目が細くなる。無邪気で、癒しを与えるような笑顔。 確かな温もりを持ち、光を放つような表情。春だからこそそう見えたのか、散り始めた桜がそれを助けたのか、 “陽だまりみたい”。 そういう印象を受ける。 ―――なるほど、通りで騒がれるわけ。モデルって、すげえ――― 渚は思った。 そして、何もない自分の右手を見つめる。 ―――きっと、幸せなんだろうな―――
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