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外は目が焼けるような赤い夕暮れ。
どうやら夕方まで寝ていたようだ。
『今日、引っ越しすんの。イマカラ』
少女はけろっとした顔と声で引っ越しの事実を伝える。
それは昨日、渚が勘違いだろうと記憶を薄れさせていた内容で、しかし、あまりにさばけた少女の様子に、動揺も寂しさも拭い去られた。
『ミチらがいないからって、泣くなよ!』
それは、泣く気も失せるほど清々しい笑顔。
つられるように渚も笑った。
『死ぬわけじゃあるまいし、泣くわけないだろ!』
少女は小声で何か呟いたが、聞こえなかったからと聞き返しても “にっ”と笑うだけで答えない。
『元気でね』
『オマエもな。イツにも言っとけ』
『ミチらが居ないからって泣くなよ』
『それはさっき聞いた』
『………』
少女はいつものように軽く挨拶代わりのキスをすると、向きを変え走りだす。
空の茜色が目に染み、痛くてこすると、人差し指が少し濡れた。
そんなセンチメンタルな空気を壊したのは、未だ唯一ひとり、納得出来ていないらしい少年。
『はーなぁせッッ!放せクソジジイ!!!』
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