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「我は勇者である! 世界を救わんがためこの地へと参じた! 俺と戦え……、魔王よ!」
勇者は勢いよく扉を開け、魔王の部屋へと乗り込んだ。
その手には大気を纏い輝く剣。軽くそれでいて高い防御力を誇る、どこぞの戦闘民族も真っ青の肩パッドに胸当て。
およそ最高の装備を整え、いままさに決戦の舞台へ。
「あ、そういうのいいんで」
床に寝転がりテレビのリモコン片手にポテチを頬張る少女は、一瞬だけ勇者の方を見たかと思うと、何事もなかったかのようにテレビの方へと向き直した。
「…………俺とたた(ry」
「そういうのもう聞き飽きたんで」
「あの……いや『そういうのいい』とかじゃなくて……、その、あれ? 聞いてなかった? えと……世界をさ、その、滅ぼそうとしてる魔王をね、倒しに来たんだよ俺? ここは『よくぞ来た勇者よ!』とか…………」
勇者は混乱した。
「いやまあ、確かに私は魔王だけど」
少女は魔王だった。
よっこら言いながら起き上がり、めんどくさそうにあぐらをかく。
あくびまじりに勇者を見る。
視線が交錯する。
「そういう独裁魔王制度は先代で終わったんで。私の代からは、民主化進めて二大政党制でやってるから。三権分立も大体終わったし、もうあれよ、勝手に他国侵略したりできないし」
魔王はだらだらと長台詞を始めた。
「それに魔界ももうさカツカツでさ、今は丞相が全権指揮してて実質あいつが魔王? みたいな感じで。私ってばあれだね、お飾り。いわゆる象徴? で、私と言えばお金を稼ぐためにいろいろとやってるわけで。まあなんだ、時代の趨勢は恐ろしいって話よ」
「戦えよおおおおおお! 戦ってくれよおおおおお!」
勇者は壊れた。
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