言い表せない瞬間

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しばらく固まったまま手にした検査薬をじっと見つめた蒼は。 そっとそれをテーブルに戻して。 ソファに腰掛けると。 「とも、」 凄くすごく優しい声で名前を呼ぶ。 「ん、」 「とも」 「ん」 ゆっくり、それから。 こわれものを扱うように。 そっとそっと抱き寄せて。 その手は慈しむ様に、頭を撫でおろす。 「やべぇ」 「っ、」 「嬉しすぎて、」 抱き寄せられた体から、蒼の早い鼓動が伝わってくる。 そっと離されるとキスが落とされて。 それは顔じゅうに降り注ぎ。 また抱きしめられる。 「蒼」 「あぁ」 「まだこうしてるの?」 「あぁ。ちょっとまだ、お前を離せそうにねぇ」 「私もまだお風呂入ってないよ」 「そうか」 「一緒に入る?」 「あぁ、けどまだ待ってくれ」 「ふふっ、」 「あと5分」 「ふふふっ、」 「いや……キリねぇな」 漸く離された体は手を引かれて立ち上り。 「よし、風呂はいるか」 手を引かれて導かれる。 「手つないで入るの?」 くすくす笑えば。 「あぁ、今日は取り合えず、離れられそうにねぇ」 真剣な顔で言われたソレに。 大事にされてると心底、感じる事が出来る。 あぁ、わたしって、 【箱入り娘ならぬ、箱入り嫁さん?】
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