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≪side kiritani≫
その手が差し出されるのも。
掴んだのが色白の華奢な手なのも。
そしてその手をつかむ彼の手に力が入ったのも。
全部、目に見えて。
彼がその人……奥さんを大事にしてるのが、わかる。
そして、低い声が。
「俺の嫁だ」
そう、言った瞬間。
分かっている事なのに。
どくんっ、一度大きくなった心臓に息が止まって。
傍らに立つその人が私を見たその時。
時間すら、止まったかと思ってしまった。
ねぇ、小田。
ゴメン、私あの時、あんたの事“バカ”って思ったんだけれど。
思った私がバカでした。
まさかだって。
こんな綺麗な人がいるなんて思わないでしょ?
彼女の言葉に自分が何て返事してるのかも分からない。
「都市伝説だと思ってた……」
「……は?都市伝説ってなんだ?」
「いや、ほら、西嶋君の奥さんがフロアの女子全部集めたよりも美人だって」
「くくっ、まぁ、それは正解だが。誰がそんなこと言ったんだ?」
「そんなの小田に決まってる」
「よし、アイツには休み明け俺の仕事半分押しつけるか」
「……私のもついでに押し付けてもいい?」
「好きにしろ」
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