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囁くような。
でも凄く気遣うような。
それでいて、半分有無を言わさないその声色は。
あぁ、そうそう、これだったな。
やっぱり俺がこの人にいつか仕えたいと思わせる、心地いい響き。
『遠いから、何もしてあげられないけれど、』
いいや、
「そんなことは無い」
その声が聞けただけで、疲れた心は楽になって。
今日ゆっくり休めそうだと顔がゆるむ。
『私はいつでも大丈夫だから』
そうか。
俺もやっぱり疲れてたんだよな。
楽しく仕事はしているけれど。
日本とは勝手の違う場所で働く事のストレスは、知らず知らずに溜まっていた。
いつもならメールで近況報告くらいだったのに、こうやって電話した事の意味をちゃんと気付いているから。
「ありがとう」
素直に口から洩れた言葉は、電話の向こう少し息をのむ音がして。
それから、
『いいえ、どういたしまして』
柔らかく吐かれた息と共に呟かれた声に、俺もほっと息をはいた。
開いていた写真はすべて閉じて。
新たに開いていたそれは、
【お嬢様と執事が微笑み合う、いつかの写真】
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