Prolog

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  梅雨明けを寂しがるように7月の終わりに降った大雨は、藤沢の大通りを濡らしていた。   夕方を過ぎ夜になる灰色の風景の中、傘をさして壁に寄りかかり携帯電話を見つめる青年がいる。   黒いシャツと青いダメージジーンズ。 だらりと伸ばした長髪が目を隠していた。 身長程のギターカバーを左手で掴んでいた。   かかる髪を掻き分けることもなく彼は一度だけ舌打ちをして傘と携帯電話を折り畳んだ。   「メール中に邪魔するなよ」   面倒くさそうに寄りかかっていた壁から離れギターカバーのチャックを開く。   「それは悪かった」   含み笑いの入った男の声がした。 ゆっくり近付いてくるその男は坊主頭に白いコート。右頬に白熊のマークがある。 その男が問い掛ける。   「江島……で間違いねぇな」   坊主の男はガンガンと拳と拳をぶつけ合わせている。音からしてメリケンサックを付けているようだ。   青年はそれを見るとプッと吹き出してすぐにまた壁に寄りかかり携帯電話をいじくりだした。   「てめぇ…!ざっけんじゃねぇぞ!!」   男は青年に向かって右フックを放った!   青年は左手のギターカバーをグッと揺らして右フックを防ぐ。   キンッという音が辺りに響いた。   「な、何……!?」   「入ってんのは、ただのギターじゃないんでね……自慢のメリケンも無意味だよ」   江島と呼ばれた青年は一気にチャックを降ろし、中から何かを取り出した。   鎌。   江島の身長とほぼ同じ高さで青い刃が月明かりにぎらつく。   「ヘッ……聞いたのと違うな…平凡な鎌じゃねぇか…」   「調子には乗らない方がいい」   江島が携帯電話をポケットにしまい、鎌を持ち変える。 と同時に男がもう一度右フックを飛ばした!   【ウィンドミル】   鎌の中心を持ち、扇のように回す! 目の前で鎌は回転し、男の拳を弾いた!   「チッ!」   男は一歩下がった。江島はその瞬間を見逃さなかった。 一気に踏み込み、そのまま刃の裏でど突いた!   「ウッ!」   「まだまだァ!」   突いた刃の裏をなぞってボルトを外す。 外したまま、鎌を大きく振り下ろした!  
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