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「ジュウジュウ亭・・ジュウジュウ亭・・・あ、ここか。」
相楽泉は、見ていた携帯のマップから顔を上げるとジュウジュウ亭と書かれた藍染の暖簾の前にいた。
商店街の一角にあるお好み焼き屋で、前から美味しいと評判の店だったが来るのは初めてだ。
ガラガラと引き戸を開けて中へ入る。
「らっしゃい!」
「いらっしゃいぃぃ」
あちらこちらから元気な声が出迎えた。
泉は、店内を見回し見知った顔を見つけて少し笑顔になった。
「よっ。よく来たな。」
真田は、カウンター越しにある厨房にいた。
頭に巻いたバンダナと暖簾と同じ藍染のエプロン、その下に着ている黒シャツという格好が、真田をいつもと違って見せている。
「ここ、座んなよ。」
真田に促されて泉はカウンターの前の席に座った。
「店の場所、すぐにわかったか?」
泉の前にお冷を出しながら真田が聞いてくる。
「携帯のナビ使ってきました。私、ここら辺詳しくないんですよ。」
「そうか?この辺、旨い店けっこうあるよ。暇があったら、今度、一緒に食いにいくか?」
「あ~~、いいですねぇ。」
誘いに乗ってきても、泉にその気は無い事はわかっている。
同志という繋がりで、共に行動することが多くなっているだけだ。
「フフッ、お前、よく食いもんについてくるな。」
真田は可笑しそうにわらっている。
泉は、肩をすくめて見せた。
「しかし、先輩、本当にバイトしてたんですね。」
泉は、頬杖をつきながら、真田に笑いかけた。
「まぁね。なんでも好きなの頼んでよ。今日は俺が焼き当番だから。」
「へぇぇ、先輩、大丈夫なんですかぁ?練習台とかじゃないでしょうねぇ?」
泉は、半笑いをしながら疑わしげな目で真田を見た。
「そんなに言うなら、俺の腕、ちゃんと見とけよ~。」
真田は、はははと白い歯を見せながら笑う。
そんな彼を別テーブルでお好み焼きを食べていた女の子二人がチラチラと見ていた。
「あの人、かっこいいよね。」
「うん、なんか爽やかでいいね。」
二人は、ぼそぼそと呟いていたが、真田の耳には届かない。
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