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蓮は、飛行機の窓からぼんやりと外を眺めていた。
ナイトフライトなので、外は暗闇と星しか見えない。
だが、今の彼には丁度いい。傷心の彼には青空は眩しすぎる。
数時間前の別れを思い、彼はまた頭を項垂れた。
半日以上も飛行機の中で費やして降り立った大地は、同じ地球でも日本とは違う空気が流れていた。
「アウェー感が半端ねぇ。」
空港内のアナウンスも聞こえてくる雑踏も、蓮にはチンプンカンプンだ。
“こんなんでやってけるのかな?”
これが正直な感想だ。
空港には迎えが来ているとの事なのだが、それらしき人物は見当たらない。
蓮は当分の間の荷物を詰めたスーツケースの上にどかりと腰を下ろすと盛大な溜息をついた。
「帰りてぇ・・・。」
まだ空港だというのに既に弱気である。
だらりと腕を垂れた拍子に、肩にかけていたショルダーバックが下に落ちた。
“あ・・・”
その一瞬の間に、掴もうと思ったバックが何者かに奪われた。
「あぁぁ!!!ちょっ、俺のバック!」
蓮は叫ぶと、バックを奪った犯人を追いかけた。
犯人は、人混みを掻き分け必死に逃げる。
「俺の足、なめんなよ!」
蓮は瞬く間に追いつきそうになったのだが、相手は地の利を活かし、右に左に通路を曲がってかわしていく。
あと一歩まで詰め寄れない。角を曲がると階段だった。
「くそっ」
何が何でも取り返してやる!
そう思った蓮の横を一陣の黒い風が通り過ぎた。
と思ったらそれは黒服の男であっという間に犯人に追いつめて、その手からバックを取り戻していた。
「あぁ、俺のバック~、さんきゅーさんきゅー」
蓮は笑顔で受け取った。
黒服の男は、にっこり笑いながら手を差し出した。
“Hi,Ren. Nice to meet you! Welcome to ○○city! ”
細身で、少し長めの黒髪。
東洋の顔ではあるが、ハーフなのか彫が深く少し影を落としただけでミステリアスな雰囲気になる。
だが、なにより驚いたのは、先程の、この男の身のこなしだった。
「あ。はい・・」
蓮は差し出された手を握り返すと、男はにっこりと笑った。あぁ、この男が迎えなのかと理解した。
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