第1章 桜の頃 海斗編

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「今、思えば、蓮の勧誘も強引だったよなぁ。」  蓮を待ちながら、桜の木の下にあるベンチに腰掛けた。 あれから3年が経ち、この春から晴れて高校生だ。 陽気な春の陽射しは、ほんのり暖かく心を和ませる。 ふぁ~と大きな欠伸が出る。 海斗は、ぼんやりと中学1年の春を思い出していた。 あの時バスケ部に誘ってもらって良かった。 中学のバスケ部は強かったので大きな大会では、全国まで勝ち進むことが出来た。 それは、海斗にとって自信にもなったし、何より成長できたように思う。 それに、何度もパスを出し合ううち、蓮との呼吸が合ってきてそれがとても心地いい。 今度は、この高校でもそうであるといいなぁ。 顔を上げると、桜がハラハラと風に触れられ舞い落ちてきた。 薄桃色の花びらは音もない空間に漂い、時を止めたようだ。 静寂がまどろみに誘う。 海斗は目を閉じた。 ー・・・・- ・・・イト・・カ・ト・・・・ どのくらい時間が過ぎたのだろう。 「・・・いと。・・かいと・・・」 身体が揺すられた。 う・・ん。まだ、もう少し、このままで・・・。 「海斗。こんな処で寝てたら、風邪ひくぞ?」 耳元で蓮の声がする。 「ったく・・・・。」 蓮が小声でボソボソ言っている。 何かが顔に触れたような気がして、海斗はうっすらと目を開けた。 「・・・れん?」 目の前には、いつもと違う顔をして海斗の顔を覗きこんでいる蓮の顔があった。 あぁ、まだ春の夢の中にいるのかな・・・ あまりの至近距離に、蓮はすっと海斗から身を離した。 「・・・」 海斗は、彼の喉仏が動くのが見えた。 逆光のせいか、瞳だけが潤んでいて印象的で引き込まれそうだ。 海斗はぼんやりと、蓮を見つめていた。 桜が蓮の上に舞い、彼自身も桜の使者のようだ。 海斗は、手を伸ばした。 そっと、桜の化身に触れる。 「あぁ。・・・綺麗だ。」 そして、海斗はフフっと笑みを浮かべながら、もう一度目を閉じた。                       おわり
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