第2章 桜の頃 蓮編

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「ようやく、ここに来れたぁ!」 蓮は空を見上げて、両手を広げる。 “未来は我が手に!そして、全世界は彼の前に跪く!” 若干の中二病的思想は、この頃の彼にはあったようだ。 「さてと、我が王子様に会いに行こう♪」 彼の名前が解らないので、今は彼の事を王子様と呼ぶ。  王子様とは残念ながら一緒のクラスにはなれなかった。 でも、一緒の学校であることは、間違いない。  先程、桜の木の下で彼を見かけたから・・・ 王子様は脆く、儚げな桜の精霊の様に思えた。 “どこのどなたか、せめて一目だけでも会わせて!! で、良ければついでにお名前だけでも!桜の王子様!” そんな願いが叶ったのか、放課後、蓮は難なく王子様を見つけた。 “時は来た!いざ、参る!!!” 声が上ずらないように、変に思われないように、自然に、軽く。 「やぁ、君、バスケ好き?一緒にやらない?」 だが、王子はつれなかった。 「今、そんなに時間ないんで。他の人誘いなよ。」 そう言って、去っていく。 あっさり退けられて、蓮は挫けそうになる。 だが、蓮は王子様に会う為、この学校へ来たのだ。 “頑張れ!僕!王子様は僕に試練を与えているんだ! こんなところで、挫けるわけにはいかない!!” 必死に自分を鼓舞した。  来る日も来る日も誘ってみた。  そしてある日、彼からようやく本音が聞けた。 「バスケ、したこと無いんだ。」 そうだったのか。 僕がウザイとかじゃなかったんだね。 (ウザかったかも知れないが、ここでは考えないことにした。) じゃあ、やることは一つだ。 蓮は、ニッと笑うと、困った顔をした王子様に言った。 「教えてあげるよ」 二人でするバスケは思った以上に楽しかった。 王子様は運動神経が良かったので、すぐに器用にボールを扱い始めた。 「楽しいね。」 王子様は、声を弾ませて言う。 “解ってくれましたか、王子様!僕も楽しいよ!” それじゃあ、これで総仕上げだ! 「じゃあ、一緒にバスケ部に入ろうよ。」 身を乗り出して蓮は言う。 どうかYESと言って! 王子様は笑いだした。 「あっははは。なんだか唐突だね。君、名前はなんて言うの?」 「!」 蓮は名前を聞かれて目を見開いた。まさか王子様から聞いてくるとは思わなかったのだ。 「七条蓮って言うんだ。よろしくね!」 「僕は、雪宮海斗。こちらこそよろしく。」 “雪宮海斗・・・” 蓮は、顔を蒸気させ、何度も名前を繰り返した。
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