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第一話~この街に生まれて~
僕が生まれた街にはいつからか、ひとつの言い伝えがある。
僕がまだ子供の頃には、そんな話をする人は一人としていなかった。
僕が大人になるかならないかの微妙な時期にある日突然にそれを聞いた。
この街には守り神がいて、その守り神の姿は一匹の猫であるという。
その猫は夜に現れるが満月の夜には黒い小さな姿で現れ、新月の夜には白い大きな姿で現れるという。
その話は酒の席の話であり、絵描きとして駆け出しの僕に知人がネタとして話したのだと、そのときは、そう思っていた。
僕もまさかと笑いながら、君は信じるのかとその知人に冗談混じりに返していた。
ただ、僕の心中は穏やかではなかった。
昔、飼っていた一匹の黒い猫を思い出さずにはいられなかった。
もし、その守り神が僕の飼っていた黒い猫であるなら、是非会ってみたい。
そう思いながら、ジョッキのビールをのどに流し込んだ。
そう。その日も下らない話をして、強かに酔って帰宅して泥のように眠るのだと。
そう思っていた。
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