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彼女が退院した一週間後、僕たちは役所にいた。
大事な大事な書類を出すために。
僕が彼女に一生を捧げる大事な誓約書。
彼女が僕に一生を預けてくれる、その約束。
そう婚姻届だ。
僕は彼女と並んで、それを提出した。
その瞬間、僕の手はぶるぶると震えていた。
嬉しさもあるが僕を支配したのは不安だった。
絵かきという人気商売で彼女を養っていけるか今になって不安になったのだ。
受理されるまでのわずかな時間、僕は横目でちらりと彼女を仰ぎ見た。
彼女は微笑んでいる。
本当に嬉しそうだ。
もう五年以上付き合ってやっとのことだからだろうか。
そんなことを考えてしまうが、僕だって嬉しいんだ。
彼女を失わなくて済んだこと。
僕のプロポーズが受け入れられたこと。
彼女が伴侶となるこの数分間、僕は幸せという不安に襲われた。
そう……。もう何も失いたくないという未来に対する不安。
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