13人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は両親にあの子がいいとクロを指差した。
両親は驚いた顔をしていたのは、今でも朧気に覚えている。
確かにもっと健康そうな猫は沢山いた。
父が、どうしてこの子がいいのと尋ねてきたのも覚えている。
僕は確かに言った。
「この子は僕に出会うためにここにいるんでしょ」
助けを求めた声を出した訳でもない。頭をすり寄せてきた訳でもない。
僕は今にも死にかけている猫を抱いて、両親に言った。
「この子の名前はクロにする。だって真っ黒だから」
父はそのとき、苦笑いをしたと僕によく昔話をしてくれた。
なんて安直なのだろうと僕以外思っただろう。
今になっても後悔はないが、もうちょっと可愛い名前か格好いい名前はなかったかとたまに考えるが、クロ以外に愛嬌のある名前はついに思い付くことはなかった。
多分、それはそれからの人生がクロが楽しくしてくれたから。それ以外の名前は僕の心に響くことがなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!