14人が本棚に入れています
本棚に追加
頭も混乱している。それに、今日は予定をたてて来ていたのもあるので、あたしは取り敢えずお土産を渡して帰ることにした。
手渡すと、皆心ここにあらず状態でお礼を述べる。・・・仕方ないか。いわば重しがなくなった状態なのだ。皆、何となく宙に浮いた感じになっている。
「携帯チェックしてみて、彼から何か入ってるようであればすぐ電話しますね。明日、また来ます」
あたしの言葉に3人とも頷いた。
親にはぐれて混乱する子供のような調査会社のメンバーをおいて、あたしは外の世界へ出た。
じっとりとした熱い空気が肌にまとわりつく。あたしもまだぼーっとしたままで、地元の駅前の、いきつけのカフェに足を向ける。
・・・・ううーん。何か、ちゃんと反応が出来ない感じ・・・。
滝本がいないとか、よく判らない。事務所のメンバーみたいに四六時中会って仕事をしているわけではないし、あたしだって1ヶ月留守にしていた身だ。
でもあの事務所に行って、不安な感じになったのは初めて・・・かも。
ぶつぶつ考えながらも足は自動的に通い慣れた道を進む。
大きな駅前の角地に立つ、大きなピクチャーウィンドウを持つカフェ。ここの岡崎店長は、爽やかかつ色気のあるイケメンで、しかもしかも、料理とコーヒーの腕が抜群にいいのだ。
あたしは最初はボリュームがあって美味くて安いモーニング目当てで常連になり、その内カフェのHPを作ったりで店員さんとも仲良くなり、今では体半分くらい店に突っ込んだ客状態になっている。
このカフェの皆はあたしがスリなのを知らない。そして、居心地の良いこの店は、今ではあたしの弱み、アキレス腱になってしまっているのだった。
あたしの生業を知って、嫌われたらどうしようと思うくらいには。
微妙な笑顔のままでガラス戸を押し開ける。
「いらっしゃいませー」
エアコンで冷えた空気とコーヒーの香り、そしてラブリー店員のラプンツェル姫こと朱里ちゃんが、声を上げながら振り返った。
「あら、薫さん!」
声に嬉しそうな響がこもり、何人かの客とカウンターの中で岡崎店長が顔を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!