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はい、お待ちしてますと笑顔をくれる岡崎さんに手をふって、あたしはキャッシャーに向かう。
気付いて、ラプンツェル朱里ちゃんがレジにやってきた。
「もう帰るんですか、薫さん?」
「ちょっと用事があってね。またゆっくり来ます」
会計をしていると姫の後ろでそれを見ていた双子の片割れを紹介された。
「薫さん、うちの新しいバイトです。海野君」
姫はカウンターで岡崎さんの指示を受ける黒髪の片割れを指差して、続ける。
「彼が兄の稔君で、こちらが弟の悟君です」
おつりを貰ってポケットに突っ込みながら、あたしは会釈した。
「野口です。ほぼ毎日モーニング食べにくる客です」
双子の弟君らしい茶髪の彼が笑顔で頭を下げた。
「海野悟です。今月の初めから入りました、宜しくお願いします」
シンプルな作りの顔は笑うと愛嬌のある表情になった。あたしはその彼を見上げて頷く。黒髪が兄、茶髪が弟ね、オッケーって意味で。
朱里ちゃんには通じたみたいで、含みのある笑顔を返してくれた。
「良かったね、人手が潤って」
彼女はふんわりと笑って頷いた。
「はい。由美さんがかなり休みを返上で入ってくれてたので。久しぶりの連休で、由美さん喜んでます。それに、女性のお客様も」
確かに、ミステリアス系双子はこの店の新しい魅力となるだろう。あたしも興味がある。
じゃあね~、由美ちゃんにも宜しく伝えてね、と手を振って店を出る。
途端に吹き付ける熱い湿った風に思わず瞼を閉じた。
夏が、始まっている。
手ぶらになったあたしは日用品と食料品を手に入れる為にスーパーへ足を向けた。
1ヶ月の旅で、冷蔵庫は空っぽにして出かけている。水くらいしかない可哀想な中身なのだ。
そして帰って―――――滝本に何が起きたかを、考えよう。
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