第1章 消えた滝本

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 例えば何かの事件に巻き込まれているのだとしても、あのずる賢い頭で何かを考え付いて誰かにはメモなりヒントなりを残しそうなものだ。多分、皆そう思ってたんだ。だから調査会社のメンバーだってあたしが何か知っているに違いないと思ってたんだろうし。  恋人には何か言ってるだろうと。  ・・・その期待はがっつり裏切られたけど。  ヤツがそれをしないなんて――――――――  もしかしたら、と敢えて考えなかった当たり前な可能性が浮かび上がり、冷や汗に震えた。  ・・・既に、死んでる?  思わずぶんぶんと頭を振る。仕事柄、怨恨などは山ほど受けているに違いない。だけどもそれは判っていたことだ。ヤツだってあたしと同様、一般人とはほど遠い。だからいずれにせよ、何かを知らせるはずだと思うのだ。  ・・・ひき逃げにあった、とかでない限り。  でも飯田さんは事故死の線は言われなくても調べているはずだ。滝本が失踪して2週間、一番大変だったのは彼等であるはずなのだから。  それに関しては言わなかった。ということは、滝本らしい身元不明の遺体はないって事なんだろう。何もなくて、ただ消えたんだろう。足跡が掴めない。だからあたしを待っていた。  無意識でかみ締めていた唇が切れて、血の味が口の中に広がった。  拳で切れた唇を拭って、ため息をついた。  ・・・畜生、滝本・・・。  一体あんた、どこに行ったの。
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