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「ない、ことはないでしょうけど、少ないでしょう。相手を愛情から許せる人は、お金を払って調査したりしませんね、多分」
はあ、成る程。確かに。愛しているなら目を瞑ろうとするほうが多いだろう。知らないフリで通す。ハッキリさせない。あたしは頷いた。
「あのホテルですね、入りますよ。撮って下さい」
身を起こしてカメラを構える。望遠レンズで5枚ほど連続でシャッターを切った。
隣で飯田さんが呟いた。
「・・・あの女性も、終わりだな」
その声には同情も軽蔑も感じられなかった。ただ淡々と、今まで見てきた同じようなケースと比べて出した結果を呟いただけみたいだった。
あたしは何だか切なくなって建物の中に消えてしまった女性の後姿を想った。どんなことも、自分で招いて選択したことなのだ。その結果の幸福も不幸も自分で対処しなければならない。
生きるって、そういうことの積み重ねなんだな、と思った。
夫はホテルに入るまででいい、と言ってましたからと、今日の調査は終わりとなった。
また飯田さんの運転で調査会社まで戻る。
あたしは暇を持て余して、そういえば、と口を開いた。
「飯田さんは会社の設立時からいたんですか?あの二人ってその頃からあんな感じだったんですか?」
あの二人とは、勿論滝本と桑谷さんのことだ。
滝本が27歳、桑谷さんが26歳の頃、調査会社を作ったと湯浅女史から聞いたことがある。
真っ直ぐ前を向いたまま、いつもの無表情で飯田さんは言う。
「いえ、私は設立から半年後くらいからです。桑谷さんに誘われて仕事をするようになった時は、所長と桑谷さんと湯浅さんがいましたね。あの二人が調査、湯浅さんが事務で」
へえ~。湯浅女史が一番最初だったのか。助手席にだらしなく座ってあたしは飯田さんの話を聞く。よく考えたらこんなに話す飯田さんを見たのは初めてだ。
「・・・仲・・・は良く、はなかったでしょうかね・・・。うーん・・・基本的に二人は別行動でしたし、あまり話してなかったような・・・。あくまでも事務連絡のみとかで。ああでも、たまに夜遅くまで二人で飲んでたようですけど」
「二人で飲む?喧嘩もせずに?」
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