第1章 消えた滝本

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 そんなわけで、滝本の事務所からの依頼もなかった6月上旬から、趣味の旅行に出かけてたってわけ。台湾に2週間いて、北部からあまり動かず毎日のんびりしていた。そしてその後はハワイへ飛び、引退するはずだったのにハワイでもやっぱりスリをしていた実の親父に会いに行った。  去年の秋から今年の春にかけての保険金事件の話をしに。  一人分の食い扶持を稼いでいればそれで良かった頃とは大いに生活も環境も変わっている。次にまたやっかいなことに巻き込まれた時用にと、一応実の親であるいい加減を煮て固めたような男に会いに行ったのだが・・・。  結果的には会えなかった。  あのバカ親父は今それなりに大きな組織に属しているらしく、個人的な面談は出来ないと断られたのだ。それで、ハワイくんだりまでわざわざ行って、電話で会話しただけだった。  その仕打ちにむかついて、開口一番あたしが放った言葉はこれ。 『バカ親父』  そしてそのたった一人の娘に対してのヤツの返答はこれ。 『バカ娘』  間違いなく、親子だって感じだった。  事の顛末だけ話すと、ふんと鼻で笑ってバカ親父は言った。 『半人前。頭の切れる何でも屋に捕まって無事で戻れただけでも有難いと思え。お前、滝本の甥っ子から逃げるのは止めたのか』  あたしはハワイのホテルで電話に向かってぶすっと言った。 『あの男はあたしを気に入ってるのよ。逃げる労力ないわ』  すると暫く黙ったバカ親父がいきなり言ったので、あたしは口を湿らせていたペプシを噴出すところだったのだ。 『・・・薫、あのガキと出来たんだな』  思わずまじまじと電話を見詰めたあたしだった。・・・何で判ったんだろう、あたしがアイツと寝ているの。  親父、ハワイに来てから賢くなったのか!?それとも変なクスリでもやってんだろうか。・・・有り得る。  返答のないあたしに電話の向こうで下品に笑って、まあ仲良くやれよ、と言ってからバカ親父は電話を切ったのだ。  何のために、ハワイまで?とそのあと3日は自分のバカらしさにうんざりして寝転んでいたけど、それからは青い空と海に誘われて大いに楽しんだあたしだった。  そんなわけで、日本の夏はこれからだというのに既に日焼けして真っ黒なあたしだ。
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