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約1時間半後。
ありがとうございましたーの声を背中に聞きながら美容院を出たあたしは、そのまま通り向かいの岡崎さんのカフェへ直行する。
「いらっしゃいませー・・・って、え?薫さん!?」
今日はオープンスタッフらしい縁の下の力持ち由美ちゃんの、素っ頓狂な声に迎えられた。
朝の9時ちょっと前。出勤前のOLさんやサラリーマンとそれ以降のゆっくり組との客層が入れ替わるバタバタする時間帯だ。
今日も入ってるらしい双子君と由美ちゃん、岡崎店長は忙しく働いていた。
由美ちゃんの声に顔を上げた岡崎さんが、少し目を見開いている。
あたしは会釈をして、一つだけ空いていた窓際の席に滑り込んだ。
変身前のあたし。金髪に近いぷりん頭で、セミロング。
変身後のあたし。潔いばかりのショートカットにして、色も真っ黒に戻した。
ハワイで日焼けしていたのもあって、美容師のお姉さんが「絶対似合いますよ!」と強く勧めたのでお任せにしたのだ。
すると出来上がったのはボーイッシュな女だった。
こんがり焼けた肌に白いチビTと短い黒髪は確かに映えた。・・・違う意味で目立つかも、と思ったあたしだったけど、今までしたことのない髪型には結構満足していた。
ふむ、なかなかいいじゃんって。この色なら眉毛もダークブラウンに変えないと浮くな、などと冷静に観察までした。
「薫さーん!髪切ったんですねえ!びっくりした~」
明るい声を出しながら由美ちゃんがお水を持ってきてくれた。あたしはにっこりと笑う。
「お久しぶり、由美ちゃん。さっき前の店で切って染めたの。変?」
あたしを凝視していたらしい由美ちゃんは、いえいえ!と首を大きく横に振った。
「似合います~!あたし女の人のショートってあまり好きじゃなかったんですけど、薫さんの雰囲気にはあってるかも~!ミステリアスな感じが強調されてますよ!」
由美ちゃんの絶賛を信じよう。あたしはモーニングを注文する。
「はい、畏まりました!あ、薫さん、お土産たくさんありがとうございます」
頭を勢いよく下げて、由美ちゃんはカウンターへ向かう。それを目で追っていたら、注文を受けながらこっちを見ている岡崎さんと目があった。
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