第1章 消えた滝本

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 興味が沸いて、急いでいるというのについ質問してしまった。この双子は外見では年齢が判らない。若く見える年上か、老けている年下かが判別不可能。前にここで働いていた守君は童顔の大学生だった。  目の前の彼はあははと軽やかに笑った。 「いえ、俺達26歳です。別に童顔ではないのにいつも年下に見られますね」 「あ、ごめんなさい」  あたしが謝ると、いえいえ、とまた笑った。 「社会経験が少ないので、頼りない外見なんですかね。学生に間違われるのは俺達のせいですから」  ・・・社会経験が少ない?それだったらあたしだって負けてないぞ。と、別に自慢にもならないことを思った。 「26歳・・・だったら、朱里ちゃんの一コ下?」  あたしが首を傾げると、彼は首を振った。 「いえ、同じ学年です。俺達早生まれなので」  へーえ。そうなんだ。たらたらと話していたら、他のお客さんが会計にやってきたので、あたしは挨拶をして店を出る。  夏の太陽を浴びて伸びをした。髪を切ったばかりで体が軽く感じた。  駅に向かって切符を買う。  さて、桑谷さんに会いに行こう。  10時前に駆け込んだのに、桑谷さんは既に来ていた。  ドアをパッと開けて入ると、そこにいた全員の視線があたしに突き刺さった。 「あっ・・・お、おはようございます・・・」  ついどもってしまった。 「おはよう野口さん。髪、切ったのね」  湯浅女史がにこにことして、手を叩いた。・・・うん、女性受けはいいと判った。このショート。 「久しぶり、野口さん。前とは全然イメージが違うな」  事務所の真ん中に立っている、壁のような男が口の左端を持ち上げて笑った。  あたしはその人を見上げる。  桑谷彰人。元はここの共同経営者。長身で細身ではあるけどガタイのいい、黙っていると強烈な威圧感を人に与える男性。  この一重の黒い目は何も見逃さないらしい。それは身をもって知っている。  あたしは去年、この人に助けて貰った。 「・・・お久しぶりです。桑谷さん」  ようやく笑うと、あっちも笑顔を返してくれた。笑顔になるといきなり雰囲気が柔らかくなって愛嬌が出るからビックリする。ガラリと変わる、その雰囲気に。 「頭、目立つから、今朝切りに行ったんです」  誰にともなく説明する。
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