第1章 消えた滝本

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 飯田さんと誉田君は首を振る。 「所長の家の鍵は特殊だそうですから。管理人に頼みますか?」  うーん、と桑谷さんが言うのに、あたしはハイと手を挙げた。 「あ、野口さん合鍵とか持ってるんですか?」  誉田君が嬉しそうに大声で聞く。  ・・・合鍵。そんなわけないでしょ、と言いたいけど、多分、普通の恋人は持ってるんだろうなあ・・・。あたしは若干ショックを受けながら言った。 「持ってません。でも、入れます」 「は?」  男3人が聞き返した。 「隣のマンションからベランダに移れます。初めて会った頃、そうやって待ち伏せしたことがありました」  へええ~!と誉田君が大声で驚く。いちいちうるせー野郎だ。うるさい誉田君の隣で飯田さんは面白そうな顔をしていた。  桑谷さんを見上げると、何とにやにやと笑っている。 「・・・何ですか?」  あたしが怪訝に聞き返すと、彼は目を細めたままで低い声で言った。 「いや、初めて電話で君と話した朝を思い出したんだ。英男にいたずらをした、あれだ。あの時か?ベランダから侵入って」  ―――――あ。  そうそう、確かにあの夜の翌朝だった!この人が滝本に電話してきて、寝ている滝本に悪戯をしかけたんだった。  あたしが頷くと、嬉しそうに笑っていた。 「成る程。待ち伏せだったのか・・・。珍しいと思ったんだ。英男が女を部屋に入れてるなんてとかなり驚いた。あいつが入れたんではなくて、入られた、んだな」  うん、確かにあの時もこの人は電話の向こうでやたらと驚いていたなあ。ぼんやりそんなことを思い出して、ああ、そんな場合じゃなかった、と頭を振った。 「じゃああたし、行ってきますね。皆さんは玄関前でお待ち下さい」  歩こうとすると、ちょっと待った、と桑谷さんに止められた。 「はい?」  あたしが振り返ると、言いにくそうな顔をして、こっちを見ている。  ・・・何だ?急ぐんじゃないの?  あたしが怪訝な顔をして見回すと、コホンと空咳をして、飯田さんが言った。 「・・・万が一、ということもありますから、教えて下さったら、侵入は私がしますけど」  うん?と瞬きをして、ようやく判った。  ―――――――万が一、滝本が部屋で死んでいたら――――――・・・・  それを想定して彼等は困ってるんだろう。
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