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飯田さんと誉田君は首を振る。
「所長の家の鍵は特殊だそうですから。管理人に頼みますか?」
うーん、と桑谷さんが言うのに、あたしはハイと手を挙げた。
「あ、野口さん合鍵とか持ってるんですか?」
誉田君が嬉しそうに大声で聞く。
・・・合鍵。そんなわけないでしょ、と言いたいけど、多分、普通の恋人は持ってるんだろうなあ・・・。あたしは若干ショックを受けながら言った。
「持ってません。でも、入れます」
「は?」
男3人が聞き返した。
「隣のマンションからベランダに移れます。初めて会った頃、そうやって待ち伏せしたことがありました」
へええ~!と誉田君が大声で驚く。いちいちうるせー野郎だ。うるさい誉田君の隣で飯田さんは面白そうな顔をしていた。
桑谷さんを見上げると、何とにやにやと笑っている。
「・・・何ですか?」
あたしが怪訝に聞き返すと、彼は目を細めたままで低い声で言った。
「いや、初めて電話で君と話した朝を思い出したんだ。英男にいたずらをした、あれだ。あの時か?ベランダから侵入って」
―――――あ。
そうそう、確かにあの夜の翌朝だった!この人が滝本に電話してきて、寝ている滝本に悪戯をしかけたんだった。
あたしが頷くと、嬉しそうに笑っていた。
「成る程。待ち伏せだったのか・・・。珍しいと思ったんだ。英男が女を部屋に入れてるなんてとかなり驚いた。あいつが入れたんではなくて、入られた、んだな」
うん、確かにあの時もこの人は電話の向こうでやたらと驚いていたなあ。ぼんやりそんなことを思い出して、ああ、そんな場合じゃなかった、と頭を振った。
「じゃああたし、行ってきますね。皆さんは玄関前でお待ち下さい」
歩こうとすると、ちょっと待った、と桑谷さんに止められた。
「はい?」
あたしが振り返ると、言いにくそうな顔をして、こっちを見ている。
・・・何だ?急ぐんじゃないの?
あたしが怪訝な顔をして見回すと、コホンと空咳をして、飯田さんが言った。
「・・・万が一、ということもありますから、教えて下さったら、侵入は私がしますけど」
うん?と瞬きをして、ようやく判った。
―――――――万が一、滝本が部屋で死んでいたら――――――・・・・
それを想定して彼等は困ってるんだろう。
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