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桑谷さんが小さく呟いて、うーん、と唸った。それをじっと見ていたら、あそこか、と呟いて、いきなりスタスタと台所に入って行った。その行動が突飛で、何となく皆でついていく。
すると桑谷さんは包丁が仕舞ってある棚を開け、躊躇なく包丁刺しの下に手を突っ込んだ。
「あぶなっ・・・!」
思わずあたしが叫ぶと、桑谷さんはにやりと笑った。
「大丈夫だ。・・・・うん、何かあるぞ」
「へ?」
「嘘」
「何ですか?」
部屋に入って5分も経ってないけど!?あたしは仰天した。
外野3人が口々に言うのを、ちょっと待て、と静かに言って、桑谷さんはゆっくりと片手を抜き出した。
その指先には一片のメモ。
「・・・何ですか、それ?」
誉田君の問いかけに桑谷さんは、簡潔に、メモだろうなと答える。
しゃがんだままの格好で、桑谷さんがそれを読む。
「・・・富永アヤメ。18日、8時」
飯田さんがハッとしたように顔を上げた。
「18日?所長が居なくなった日です!」
何だと!?あたしは唖然として口も目も見開いた。
部屋に入って約5分、なんてあっさりと手がかりが見つかったことか!何だそれ?どうして今までこの部屋に誰も来なかったのよ!?
でもちょっとしたパニックが落ち着くと、今日までは無理だったんだよな、と自分で突っ込んだ。
あたしが居なければ部屋には入れなかった。桑谷さんが居なければこの部屋の捜索は3日間くらい続いたはずで、しかも包丁刺しの裏に手を突っ込む人なんか普通はいないから、やっぱり見つからなかった、と。
桑谷さんが立ち上がる。
あたしはそれを目で追って、ぽろりと言葉が零れてしまった。
「・・・どうして」
「うん?」
居間に移動しかけていた桑谷さんが振り返る。
「どうして判ったんですか?包丁刺しの下だって」
飯田さんと誉田君も同時に桑谷さんを見た。視線を一斉に浴びて、桑谷さんは頬を指でかりかりと掻いてから、言った。
「これは英男の癖だ。忘れない為のメモで人に見られたくないものは、包丁刺しの下に貼り付ける」
「癖?」
一瞬間があいたけど3人でハモって聞き返すと、それが面白かったらしく彼は笑った。
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