第1章 消えた滝本

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 そんなわけで、苦労して入った滝本の部屋は、入って10分で撤退となった。  飯田さんがあたしが壊した窓の修繕をしている間に、桑谷さんは滝本の持ち物を軽く調べて言った。 「別に大きく無くなっているものがあるわけじゃねえみたいだな。あいつは自分の意思でどこかに行ったわけではないって事かな」  いつも通りに家を出て、きっとこの女のところに行ったんだろう。あたしは画像の粗い写真をチラリと見た。 「8時って待ち合わせですかね。朝の8時ですよね、これ。事務所に出勤しなかったんですもんね?」  振り返って飯田さんに聞くと、彼は手を止めずに頷いた。 「それに関しては事務所で話そうぜ。名前が判ったならこの女についても調べられるだろう」  桑谷さんの言葉で撤退となる。男3人に玄関から出てもらい、あたしは中から施錠する。そしてベランダに出て、ここの鍵だけは仕方ないから(なんせ窓割っちゃってるし)許してね、と手を合わせて謝り、また隣のマンションに飛び移った。  一歩、前進だ。  滝本の部屋に入って、ヤツの香りに気付いた時、ぐぐっと来た。  本人がいない部屋に他の人といることが不思議で、そんな状況なんだと今更ながらに感じたのだ。  滝本が、居ないんだって。  飛び移ったマンションの廊下でため息をつく。  ・・・海外に行ってても感じないこの感覚は・・・まさかのホームシック。  会えないと思うと会いたくなるのはどうしてだろう。いつでも日本に帰れば、その気になれば会えると思っていた男が居ない。探さなきゃ、しかも死んでなければって条件があって、でなきゃ顔も見れないとか・・・。  うわああ~・・マジで、イライラする。嫌だー、こんなの。  あたしは体を起こして前を向いた。そしてマンションの階段を駆け下りた。  ストレスなんかごめんだ。  あたしは絶対あの男を探し出して――――――――  土下座させて謝罪させてお詫びに奢らせてその記念写真まで撮ってやる!!
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