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鮎川君は少し首を傾げて頷く。
「はい、最終的な金額の話合いとその後のフォローについて、ですね」
「そうですよね・・・。あのー、その時うちの所長はその後の予定など話してなかったでしょうか?この後どうするんだ、とか・・・」
ないよなーと飯田さんも思っている感じの聞き方だった。
慎重な滝本が他の件の依頼者に関係のないことを言うはずがない。それは飯田さんが一番良く判ってることだろう。
鮎川君は簡単に、いいえ、と答える。・・・そりゃそうだろうね。
何となく、二人でがっかりしてしまったら、鮎川君が怪訝な顔でこっちをみている。
「滝本さん、どうかしたんですか?」
飯田さんが手を振って、笑顔を見せた。おお、営業スマイルか!初めてみたぞ。お客さんには笑うのか!
「いえ、ちょっと確認でして。大したことではないんです。ありがとうございました」
目配せに気付いて、あたしも笑顔で頭を下げる。
「お邪魔しました。またね、鮎川君」
二人でお礼を言って、消化不良の顔をしたままの鮎川君を校門前にほったらかしで逃げた。
早足で歩きながら飯田さんが言う。
「彼にはツテもコネも大量にあります。でも巻き込むのは最後まで止めときましょう、今は、桑谷さんもいてくれてるし」
「そうよね。大体賢い高校生なんて一緒にいたら、自分がバカだと気付いて凹むから止めましょう」
ストーカー事件で彼の凄さ(色んな意味で。行動力も解析力も悪魔的性格も)を見せ付けられて動揺した経験があるあたしはすぐに同意した。
車に乗り込んで汗を拭う。太陽は真っ直ぐに光を落とし、すでに真っ黒なあたしの肌を更に焼く。
「これで、あの女性だけですね、追うべき線は」
飯田さんが呟いた。あたしも頷く。戻って、作戦会議だ。
事務所に戻ると、何と桑谷さん達も今戻ったところだった。
「え?何してたんですか?」
あたしがついそう言うと、桑谷さんは隣に立つ誉田君を指差した。
「昼飯、選んでた。こいつが長かったんだ。信じられない・・・たかが弁当選ぶのに、何であんなに時間かけるんだ」
うんざりした顔の元上司を見て、誉田君はにかっと笑い、大声で言った。
「だってですね!俺嬉しくって、つい!桑谷さんと一緒に買い物なんて滅多にないでしょ!!」
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