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湯浅さんはそれを指差して叫んだらしかった。
「――――――は?」
ガタンっと音をたてて桑谷さんが立ち上がる。
飯田さんがゆっくりとお弁当を机に置きながら呟いた。
「小川まり?・・・奥さん、ですよね。・・・桑谷じゃないけど・・・あれ?別人ですか?」
「え?奥さん!?」
「ええ?マジっすか!?」
あたしと誉田くんだけついていけずに叫ぶと、突如もの凄く機嫌が悪くなったらしい桑谷さんが低く唸ったからびびった。
「・・・・彼女は旧姓を愛してるんだ」
低く低く搾り出すようにそう言って、持っていた割り箸を片手で握り潰した。
その結構な音にあと4人が思わず仰け反る。
「沖縄。この時間。小川まり。間違いなく、人質の一人は俺の妻だ」
細身だけれども大きな桑谷さんの全身から、強烈な怒気が発されている。真っ赤な荒れ狂う炎が見えるようだった。
「・・・何だって器用にトラブルに巻き込まれるんだ!!くそ、勘弁してくれ!」
・・・いやあ~、別に奥さんだって好き好んで人質になったわけではないでしょうに。怒り狂う桑谷さんを見上げながらあたしはつい胸の中で呟く。
するとへし折った箸をゴミ箱に投げ入れて、桑谷さんが恐ろしく不機嫌な顔であたしを見下ろしたから、まさか聞こえた!?とあたしは非常に緊張した。
迫力に押されて身を縮こませるあたしにぶっきらぼうに言った。
「野口さん、悪いけど俺は抜ける」
「へ?・・ああ、はい、勿論です、どうぞどうぞ」
わたわたと返した。超怖ええええええ~!!もういいですからさっさと行ってくださいって心境だった。
桑谷さんは弁当もそのままゴミ箱に乱暴に突っ込んで、飯田さんに言いながらドアに向かう。
「飯田!英男のバカ野郎はきっとまだ生きてる。あとはお前らで何とかしろ。困っても俺には電話するんじゃねーぞ。英男より性質の悪い、自分の女を迎えにいかなきゃなんねぇからな」
「あ、はい・・・ええと・・・桑谷さんも気をつけて」
飯田さんの最後の言葉はドアの閉まるバタンという音でかき消された。階段を駆け下りる激しい音が聞こえて、すぐに消えていった。
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