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皆でぽかんとした顔を見合わせる。
「・・・奥さん、人質だって」
「・・・でもとっても運も度胸もある人みたいだから、きっと大丈夫だと思うんだけどね」
「桑谷さん沖縄まで行くつもりですかね」
「行くんじゃない?あの勢いなら。完全にキレてましたよ、あの人」
「だって子供さんは?」
「ああそうか。息子さんどうするんでしょうね」
しばらく唖然としたままで、嵐の過ぎ去った後の事務所でぼそぼそ話していたあたし達だった。
テレビは相変わらず人質ニュースを伝えている。あたしはそれをぼーっと見ながら、やっと桑谷さんに同情した。
友達の行方不明事件で報酬もないのに働いていたら、今度は妻が事件に巻き込まれてる・・・・うううむ、可哀想だ。一番運がないのは実は桑谷さんかもしれないね、などと思った。
だって滝本や皆から聞いていた情報で判断すると、そのまりさんて奥さんは相当肝っ玉の据わってそうな人だった。人質になったって、それを楽しんでそうだけど・・・・いや、それはないか。今はお母さんなんだもんね。
色々と気になる人だ。
滝本の件が無事に終わってちゃんと生きて見つかり、あっちも事件が解決した暁には一度でいいから本人に会ってみたいぞ。
何だか呆然としてしまって、皆食欲をなくし、ご飯はそれで終了となった。
風のようにやってきて、嵐となって去って行った桑谷さん。その存在が強烈すぎて現実感が戻るのに時間が掛かったのだ。
引き受けていた案件のほとんどは完了している状態で、事務所には電話もほとんど来なかった。
何となく書類の整理をしたりしている皆を、あたしはソファーでだらけながらぼーっと見ていた。
皆がやっとはっきりと頭を動かして、いざ、調査に、と思ったのは夕方も4時ころになってからだった。
すまん、滝本。でもあたし達は桑谷さんの身に降りかかった災難にあっさり流されちゃってたのだよ。許せ。
そして気合を入れなおしたそのころ、また別の嵐がやってきたのだ。
ただし、今度は大いに関係のある嵐だった。
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