第1章 消えた滝本

5/42
前へ
/200ページ
次へ
 梅雨明けしたはずじゃあなかったっけ?とぼーっと考えた。  今にも水が落ちてきそうだ・・・・。空は、いつでも突然泣き出す。そんなことを思うと、あたしは小さな子供を連想する。  膨れて、泣き出す。そして地団駄踏んで、泣きつかれて眠る。  ゆっくりと足を地面に戻した。  血液が体中をまわるのを感じる。ついでに確かに生きているってことも感じるのだ。  そしてあたしは大人になったんだ、って。  もう一人でしゃがみ込んで泣くことなんてなくなった。  母という存在がいないあたしは小さな頃はよく一人でうずくまって泣いていた。  泣いたってどうにもならないんだぞ、って、バカ親父はいつだってそれしか言わなかったから。  慰められるということに慣れない学生時代だった。そして、物事にこだわることをあたしは早々に止めたのだ。  学校という場所を卒業してからあたしが泣いたのは3回ほどで、それは全て―――――――滝本という男のせいだった。  ぐずぐずといつまでも厚く垂れ込めるだけの空をチラリと見る。  そして、ゆっくりと呼吸を整えて立ち上がった。  台湾の、隣の音がだだ漏れの安宿でもストレッチはしていた。ハワイでは毎日海で泳いでいた。だけども一連のちゃんとした運動は出来ておらず、旅行中になまった体を動かす必要があった。  あたしは壁のスイッチを押して、部屋中に音楽を流す。今日の気分はレゲエだ。ジャネット・ケイの素敵な歌声も借りよう。  目を閉じて思考を飛ばす。そして動く通りに体をのせた。  30分ほど独自のダンスをして汗をかいたらシャワーを浴びて、次は修行に入る。  つまり、スリの修行に。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加